シアル酸合成不全が血小板減少症の原因であることを発見
【ポイント】
・治療抵抗性(注1)の血小板減少症患者において、シアル酸(注2)合成酵素を作る遺伝子(GNE(注3))に変異があることを発見した。
・その変異によりシアル酸をほとんど合成できないことがわかった。
・その患者と同じ変異を持つマウスは異常な血管構造及び致死的な脳出血を示し、GNE遺伝子の新たな機能が明らかとなった。
・シアル酸異常が血小板や筋肉に影響を及ぼすメカニズムの解明が期待される。
【概要】
名古屋大学糖鎖生命コア研究所の近藤 裕史 講師らの研究グループは、The First Affiliated Hospital of Soochow University(中国)のルル・ホァン大学院生、Oklahoma Medical Research Foundation(アメリカ)のリジュン・シャ博士との共同研究で、血小板減少症を呈す患者において両親に由来するGNE遺伝子に、これまでに報告のない2つの変異を発見しました。GNEは酸性糖であるシアル酸を作る酵素であり、GNEに変異のあるヒトでは骨格筋機能異常を示すことが報告されていました。しかし、今回の症例は血小板に限局した異常を示しており、これまでに例の少ないユニークな患者です。本研究ではGNE遺伝子異常が血小板減少症の原因となるかを、患者と同じ遺伝子変異のうち一方を持つマウスおよびGNE遺伝子欠損細胞を解析することで、変異GNEの機能解析を行いました。その結果、患者のGNEは酵素としての働きをほとんど失っており、シアル酸の合成能が著しく低下していました。また、変異マウスは致死的な脳出血を認め、産まれてくることさえできませんでした。このことから、働きをほとんど失ったがほんの少し働く変異GNEにより患者は生存できるものの、血小板機能には不十分であることが示唆されました。本研究は、シアル酸合成不全に基づく血小板異常症の治療法開発や、GNE異常に基づく骨格筋異常の発症メカニズムの解明への貢献が期待されます。本研究成果は、2024 年 2 月 27 日付で、国際学術誌「Blood Advances」に掲載されました。
◆詳細(プレスリリース本文)
【用語説明】
注1)治療抵抗性:ある疾患や症状が既存の治療法に対して反応しづらい状態を指す。
注2)シアル酸:炭素数9の酸性糖の総称で、通常、細胞表面の糖鎖の最外端に付加している。シアル酸は、細胞間相互作用、認識、シグナル伝達など、様々な生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たしている。
注3)GNE:シアル酸の生合成 (de novo biosynthesis)に必須な細胞質に存在する酵素であり、2つの酵素活性を持っている。正式名称はUDP-N-acetylglucosamine 2-epimerase (UDP-GlcNAc 2-epimerase)/N-acetylmannosamine kinase (ManNAc kinase)。 GNEの機能不全は骨格筋異常を引き起こすことが知られている。
【論文情報】
雑誌名:Blood Advances
論文タイトル:Novel GNE missense variants impair de novo sialylation and cause defective angiogenesis in the developing brain in mice
著者:Lulu Huang*, Yuji Kondo*, Lijuan Cao, Jingjing Han, Tianyi Li, Bin Zuo, Fei Yang, Yun Li, Zhenni Ma, Xia Bai, Miao Jiang, Changgeng Ruan, and Lijun Xia(下線は本学教職員)
DOI: 10.1182/ bloodadvances.2023011490
URL: https://ashpublications.org/bloodadvances/article/8/4/991/514638/Novel-GNE-missense-variants-impair-de-novo
*:co-first authors
【研究代表者】
大学院医学系研究科/糖鎖生命コア研究所 近藤 裕史 講師
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/seika2/