酵素受け渡しによるがん関連糖鎖の新たな改変機構を解明
~がん細胞は糖鎖合成酵素GnT-Vを小胞に乗せて分泌する~
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学糖鎖生命コア研究所の木塚康彦教授らの研究グループは、同研究所鈴木健一教授、大阪国際がんセンターとの共同研究で、がんに関わる糖鎖が作られる新たな仕組みを発見しました。 GnT-Vは糖鎖を作る酵素で、作られた糖鎖はがんを進行させることが知られています。本研究で、GnT-Vはがん細胞が放出する細胞外小胞に存在しており、この小胞がそのまま別の細胞に受け渡されることがわかりました。小胞を受け取った細胞は、GnT-Vが作るがんタイプの糖鎖を新たに作るようになることから、小胞上の酵素の受け渡しを介して細胞の糖鎖が改変されることが明らかになりました。 本研究は、糖鎖の合成を調節する新たなメカニズムの解明や、細胞外小胞を介してがんが進展するメカニズムの解明への貢献が期待されます。 本研究成果は、2022年12月5日付で、国際学術誌『iScience』に掲載されました。 |
本研究により、糖転移酵素が小胞を介して別の細胞に受け渡されることがわかりました。本発見は、糖転移酵素が取り込まれた先の細胞で活性を発揮し、細胞の糖鎖を改変する可能性を示しており、これまで知られている直接的な遺伝子発現を介さない、「酵素タンパク質獲得型」とも言える新たな糖鎖改変機構の存在を示唆しています。さらに、GnT-Vが作る糖鎖はがんの転移と密接な関係があることから、本研究で明らかになった仕組みは、糖鎖ががん転移を制御する仕組みの解明にも貢献することが期待されます。
【論文情報】
雑誌名:iScience
論文タイトル:N-Acetylglucosaminyltransferase-V (GnT-V)-enriched small extracellular vesicles mediate N-glycan remodeling in recipient cells
著者:Tetsuya Hirata, Yoichiro Harada, Koichiro M. Hirosawa, Yuko Tokoro, Kenichi G.N. Suzuki, Yasuhiko Kizuka
DOI: 10.1016/j.isci.2022.105747